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牛飼いの嫁さん 元気レポート Vol.1 木下牧場 木下その美さん
牛飼いの嫁さん元気レポート Vol.1木下牧場 木下その美さん

家族がいて、仲間がいて、笑顔がある。

燃料だけでなく肥料や飼料の価格高騰など、農業を経営するには厳しい環境ですが、木下牧場では、家族の力や仲間の知恵を持ち寄って、元気に近江牛の畜産経営をしています。
夫の入院を契機に近江牛の繁殖に取り組み粗飼料生産組合を仲間と立ち上げるなど、自分で道を切り拓いていきました。
木下その美さんの周りには、いつも家族や仲間の笑顔があります。

子どもたちのそばにいたい

近江牛は滋賀県で肥育される和牛で、同じ但馬牛を素牛とする神戸牛、松坂牛とならび、日本三大和牛のひとつとされるほどのブランド牛です。
肉の繊維や霜降りのきめが細かく、「口の中でとろけるようなまろやかさ」がその味わいの特長だといわれています。

木下牧場はもともと、義父の木下輝男さんが入植して始めた稲作農家でした。
しかし、米の生産調整が始まり、昭和四十七年ころ酪農・肉牛の畜産経営に転換。
ホルスタイン種去勢牛の肥育を一六〇頭ほどの規模で始めました。その後、東京の農業大学を卒業した夫の幸雄さんが跡を継ぎました。

和牛繁殖を取り入れたのは、平成六年のこと。二人の子どもを育てながら畜産を手伝っていたその美さんでしたが、平成五年の一月に幸雄さんが入院してしまい、 人生の岐路に立たされました。
その美さん一人では、多くの牛の面倒を見ることはできません。
畜産をやめて勤めに出るか、繁殖に取り込むかを考えました。

当時は牛肉輸入の自由化が始まる頃。その美さんの父親で、 後におうみ和牛繁殖協議会会長となる後藤喜代一さんは「和牛はもとが高いから子牛をよそから買って育てている時代ではない」と、 すでに五頭くらいの繁殖から始めていました。
その美さんは実家の会計も担当していたため、繁殖した牛を売る時に元牛の金額が引かれず、そのままの金額が収入になることを知り、 これなら少ない頭数でも利益を多く出せるし、私一人でもできるかもしれないと思いました。
そこには、外に働きに出るのではなく、畜産を続けていれば子どもたちとも一緒にいられる、という母親としての思いも大きかったといいます。

以後、その美さんは近所に住む父親に繁殖の方法を学びながら、繁殖肥育一貫経営に取り組みました。
自分で計画的に種付けをしたいと人工授精師の資格を取得。
市場のセリで自ら母牛を購入するために、家畜商免許もとりました。
今では母牛を選び、人工授精師として種付けを行い、子牛を産ませて母牛の母乳で育て、出荷まで一貫して管理しています。

こだわりは自然に産ませ、育てること

木下牧場では現在、六十九体の母体を含む二〇〇頭の近江牛が暮らしています。
特にこだわっている点は自然に産ませ、自然に育てること。母牛は子牛を産む機械ではなく、 人間は牛の命をもらって食べるわけですから、食べ物としても自然に育てたいと思っているからです。
だからこそなるべく人工的なことはせず、妊娠中の母牛に促進剤などは絶対に使わないといいます。

また、母牛の母乳で育てるため、畜舎や母牛を清潔に保たなければなりませんが、そのための手間を惜しみません。
昔からの方法を当たり前に行うだけではなく、いつでもどこにいても常に牛の状態を監視できる六台のライブカメラを設置したり、農作業機器は効率的に使用しています。

「牛の勉強をして、子牛は生まれた時は免疫がなく母乳から免疫を吸収すると知り、母乳の大事さがわかったんです。
私自身子どもを母乳で育てたし、乳牛ではないので母乳は子牛のものです。
牛は人間が手を加えなくても大きくなるのが自然だし、母乳で育てると強い子牛に育つんですね。
出産後に母牛が倒れてしまったことがあって、1頭だけミルクで育てたことがありましたが、病弱でした」とその美さんは話します。

木下牧場では、分娩舎、親子舎、親牛舎、子牛舎、肥育舎の五棟がありますが、ほかの牛から菌などが持ち込まれないよう、分娩舎は牛舎から離れた場所に建てました。
また、妊娠中の母牛は出産一ヵ月前から子牛牛舎に入れ、子牛が自分で餌を食べられるようになる産後二ヵ月くらいまでは一緒におきます。
その後は、親は親、子牛は子牛の団体生活が上手にできるようになったら親子を離します。
また、放牧場を作って放牧し、自然に健康的な牛を育てることをめざしています。

琵琶湖のそばにある木下牧場は、母牛を選んで種付けを行い、子牛を母乳で育てて出荷する、繁殖肥育一貫経営。
琵琶湖から吹いてくる心地よい風と清涼な空気、騒音など一切ない静かで広々とした環境で、牛をストレスなく育てることができるという。
幸雄さんは木下牧場の2代目で、現在約200頭(うち母牛69頭)の牛を分娩舎、親子舎、親牛舎、子牛舎、肥育舎の5棟で肥育。近隣の3牧場とともに「近江牛粗飼料生産組合」を結成し、 粗飼料の生産・収穫などの作業を共同で行っている。
その美さんは「おうみ和牛繁殖協議会」の女性部会長。
家族は、義父の木下輝男さん(78歳)、義母の幸子さん(77歳)、夫の幸雄さん(49歳)、その美さん(44歳)、長女の美奈さん(18歳)、次女の沙耶香さん(15歳)の6人家族。
犬は牛舎に2匹、家に1匹、家と牛舎を行ったり来たりする犬が1匹いるという、犬好きの一家でもある。

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